「実紅、大丈夫?
いつも言ってるだろう? 無理はしちゃダメだって」

いかにも心配してますって顔で話しかけてきて、私の腰に手を添える恭ちゃん。
そこに逆らえない何かを感じて、戸惑いながらもそれに従うしかなかった。

「実紅、大丈夫? つらかったら僕に寄りかかって」

そう言って心配そうな視線を落としてくる態度は演技なんだ。
それは分かってる。

学校だし普段の口調じゃ絶対にマズいから、猫をかぶってるだけだって。
この行動も、先週の様子から予想すれば、きっと女子生徒から逃げるために私をダシに使ってるとか、そんなところだろうし。

だから、今の恭ちゃんに説明はつくし、深く考える必要はないんだろうけど。

……だけど。
さっきから引っかかる口調は。
この、少し優等生っぽい口調は――。

六年前まではいたハズの“恭ちゃん”の話し方だ。
私が好きだった、“恭ちゃん”のものだから。

だから、戸惑いが隠せない。