身体は震えているけれど、胸の中の緊張が和らいでいく。
愛しくて仕方ない、恭ちゃんのぬくもりに。

恭ちゃんは私に抱き締められたまま動かなかった。
だから私も何もしゃべらずに、ただお互いの呼吸だけに耳を澄ませていて。

そのまま長い時間が経った時、ようやく沈黙を恭ちゃんの声が破った。

「――バカじゃねーの。震えるほど怖いなら逃げろよ」

恭ちゃんの声に、ゆっくりと抱き締めていた腕を緩めて、恭ちゃんとの間に距離を作る。
恭ちゃんの顔が見えるように。

「俺、逃げろって言っただろ。傷つける前にって。
なのに簡単についてくるヤツがどこにいるんだよ。
そんなだから田口に襲われるんだろ」
「恭ちゃん……」

ようやくクリアになった視界に映ったのは、恭ちゃんの優しい微笑みで。
いつもの恭ちゃんに、また涙が浮かび始める。

「……やっぱり怖かったんだろ」

そんな私の涙を指先で拭いながら聞く恭ちゃんに、ふるふると首を振ってから頷くと、どっちだよとツッコまれる。