「恭ちゃん……」
奮えた声で呼んだ私を、恭ちゃんは怒っているのか少し怖い目で見た。
さっき保健室で変な態度をとったからなのか、それとも、痴漢なんかに抵抗できなかったからか。
恭ちゃんの怒っている理由を探していると、駅に着いた電車がゆっくりと止まってドアが開く。
「あ、おいっ、待てっ!」
ドアが開くや否や、まだ股間を両手で押さえたままの痴漢が走り出す。
それに気づいた恭ちゃんもその後を追って電車を降りた。
「恭ちゃん……っ」
腕を掴んで必死に止めると、恭ちゃんが睨みつけるようにして私を見る。
「逃げられるだろっ、離せっ!」
「嫌っ! あの人捕まえてどうするの?!」
「警察に突き出すに決まってんだろっ!」
「そんなのダメ! 恭ちゃんと私が一緒にいたってバレちゃう……!」
「別にそんなのバレたところで……」
「校外で一緒にいたなんて知られたら、今度は桜田先生だって見逃してくれないかもしれないじゃないっ!
また教育委員会に言いつけるとか言い出すかもしれな……」
そこまで言ってからハっとして口を閉じた。
目を逸らしたハズなのに、恭ちゃんの睨むような鋭い視線を刺さるように感じる。
ホームに発車のベルが鳴り響いて、電車が収容人数ギリギリの乗客を乗せて走り出す。
ほとんど人がいなくなった静かなホームで、恭ちゃんの腕を離して……ゆっくりと視線を落とした。



