私が鍵を閉めてもいいけれど、男の人が最後施錠するのが暗黙のルールとなっているのは知っていたから、事務長にお願いする事にした。
鞄を持って、デスクの上を片づけてなるべくゆっくりと保健室に向かう。
どうやっても20分かける道順は思いつかなかったから、素直に真っ直ぐ、だけど足取りは重かった。
それは保健室への到着を遅らせるためではなくて、気持ちの問題だ。
恭ちゃんに会ったら、私は恭ちゃんが好きじゃないって嘘をつかなくちゃならないんだから。
あの瞳を前に嘘なんかつけるのかは激しく疑問だけど、やるしかない。
そうしないと……恭ちゃんを助けられないんだから。
好きじゃないなんて言ったら。
この後のふたりの関係はどうなるんだろう。
恭ちゃんは私にも、またあの仮面をつける事になるんだろうか。
そう思うと、それが怖くて足が止まりそうになる。
それでも立ち止まるわけにはいかなくて、心がボロボロになりながらもなんとか保健室の前までたどり着いてドアを開けた。
恭ちゃんに嫌いだっていうために。
「――あら、河合さん、どうしたの? 具合でも悪い?」
「……いえ」
「そう。じゃあ何の用なのかしら」
私が傷だらけになりながら開けたドアの向こうにいたのは、桜田先生だった。
向けてくる笑顔に、まるで牽制されている気持ちになる。



