甘い愛で縛りつけて



「河合さん、そろそろ朝宮くんの手伝いに行ってあげてください」

17時10分。カタカタとパソコンを打っていた私に、事務長が命令を下す。
定時の17時30分まで、忘れたふりをして仕事をしているつもりだったけど、こうなったら体調が悪いと嘘をつこうと思ったものの。

穏やかに微笑む事務長の無言の威圧に耐えきれず、はい、と小さな返事をする。

恭ちゃんの無言の威圧とはまた違ったオーラが事務長にはある。
逆らったらとてつもない罪悪感に苛まれそうでとてもじゃないけど、逆らえない。

恭ちゃんが認めるだけあるのかもしれない。

ガタンと立ち上がって、どうにかして保健室まで20分かけられないだろうかと考えている私に、事務長が言う。

「河合さん、鞄も持って行ってそのまま帰ってください。
今日は田口くんも出張だし、他の事務員も定時には上がりますから、ここも鍵を閉めるので」
「あ、はい……」

田口さん出張だったのか。いないの分からなかった。
人妻事務員さんが仕事を定時きっちりに片付けて上がるのはいつもの事だし、事務長もそんなに残業はしない。

そうなると、日中無駄口叩いて結果残業になる田口さんがいつも事務室の鍵閉めになるけれど、そんな田口さんも今日はいない。