あの時はまだ触れてられたのに。
あの時はまだ笑っていられたのに。
もう……あんな風に触れられる事も、キスする事も、一緒に笑える事もなくて。
もう……。
気持ちを伝える事さえ、許されない――。
「私も……好きなのに」
無意識のうちに口をついた言葉。
涙のせいで息がうまくできなくて、声が掠れていた。
脱衣所の床にポタポタと落ちていく涙を見つめて、そのまま床にしゃがみ込んだ。
静かに溢れ続ける涙をぬぐう事もできずに、床についた両手をそれぞれ握りしめる。
手のひらに食い込む爪が痛い。
ひどく悲しくて胸が痛くて……まるで思考回路が切断されたみたいに、恭ちゃんの事以外何も考えられなかった。
考えるなと思えば思うほど、恭ちゃんしか見えなくなる。
恭ちゃんがくれた言葉。
恭ちゃんがくれた真剣な瞳。
恭ちゃんの……意地悪な微笑み。
もっと早く気付けばよかった。
変な意地なんて張らずにすぐに応えればよかった。
しても仕方ないような後悔ばかりが頭に浮かぶ。
もう、決して届かない想いが、胸の中で膨れ上がって息苦しい。
伝えられない事を知って、初めてこんなにも大きくなった気持ちに気づいた。
恭ちゃんの気持ちに応えたいと思った。
伝えたい。
傍にいたい。
一緒にいたい……。



