「で、どうした? それ」
「だから、生徒に半強制的に」
「ジャージ着てる理由じゃなくて、ケガの事だ」
「あ、えっと……ちょっと、転んじゃって。っていうか……転ばされちゃって」
「転ばされた? 誰にだよ」
「……恭ちゃん、なんか口調が怖い」
「誰にだよ」

恭ちゃんはそんな気ないのかもしれないけど、低い声で言われると威圧されてる気分になる。
いつも軽いトーンだから余計に。

「本当だかは分かんないけど……生徒が言うには、桜田先生が私をわざと後ろから押して転ばせたって」
「……桜田先生が?」
「でもそれが本当だかは……恭ちゃん?」

顔を上げると、恭ちゃんは眉間に小さなシワを寄せて何か考えているみたいだった。
不思議に思って呼びかけると、恭ちゃんはしばらくそうした後、私に向き合うように椅子を回転させてさらに距離を縮める。

「な、なんか近くない?」
「あ? 何意識してんだよ。治療だろ。ほら、まず顔上げろ」

近すぎるって言ってるのに、更に顔を上げろなんて、意地悪してるとしか思えない。
趣向の加虐心が発令してるんだろうかとも思ったけれど、恭ちゃんの声は真面目だし……。

仕方なく、ゆっくりと顔を上げた。