「実紅、どうした、それ」

女子生徒の後ろ姿を眺めていると、いつの間にかすぐ傍まで来ていた恭ちゃんが聞く。
まるで気配を感じなかったから一瞬びっくりしてから、目を伏せた。

こんなコスプレみたいな姿、絶対に見られたくなかっただけに目を合わせる事ができなくて。
恭ちゃんの横をすり抜けるみたいにして部屋に入る。

「実紅。どうしたんだって聞いてるだろ」

さすがに無視するわけにもいかず振り向くと、ドアを閉めた恭ちゃんはさっき一瞬見せたような真剣な顔をしていて。
ぴりぴりとしたものが膝と部屋を包む。

「なんか、高校の時バスケ部だって言ったら、生徒に試合に出て欲しいって頼まれて……」
「つーか、そこ座れ」

命令みたいに言われて、渋々さっきまで女子生徒が座っていた椅子に腰を下ろすと、恭ちゃんも自分の椅子に座った。

……あの子、相当自信があったのかな。

そう思ったのは、座ってみたら恭ちゃんとの距離が思いのほか近かったから。
こんな至近距離から誘うなんて、私だったらどんなに自分に自信があっても無理だ。

誘うどころか、普通の会話するのもしんどいような距離だった。