家族……?
その言葉に恭ちゃんの家族を思い出そうとして、記憶の中に、恭ちゃんの両親が存在しない事に気づく。
一人っ子だから兄弟の記憶がないのは当たり前だけど……。
なんで、両親まで覚えていないんだろう。
六年間も追いかけまわして家にも上り込んでいたんだから、何度か顔を合わせてもいいように思うのに。
共働きとかだったのかな。
「でもね、河合さん」
呼ばれて、ハっとして顔を上げると、穏やかな微笑みを取り戻した事務長と目が合う。
「彼は、ありません、ではなく、分かりませんと答えたんだ。
そこに望みがあるんじゃないかって、私は思った。彼自身も、まだ諦めていないんじゃないかと」
「望み、ですか……」
「今の若い者はドライだなんて言われているのは知っているし、もしかしたら彼自身、自分の人生の中に、大切なモノなんて望んでいないのかもしれない。
それが彼のスタイルなのかもしれないとも思ったんだが……。
どうしても、私にはそうは思えないんだ。彼の表情が、そう言っているようには思えないんだよ」
事務長が「だから河合さん」っとじっと私を見あげる。



