何もないなんて事がありえるんだろうか。
普通に生きていたら、家族だって友達だっているハズだ。
例えそういう人間関係をどうでもいいって考える冷たい人がいたとしても。
お金だとか、そういうモノへの執着くらいあると思う。
何か、たったひとつくらい、大事だと思えるモノがあったっていいのに。
恭ちゃんには、何もないの……?
最初からふざけているような質問だし、事務長の言った通り、考えるのが面倒だったのかもしれない。
恭ちゃんの事だし、それだってありえないとは言い切れない。
それでも……何もないって答えた恭ちゃんを思うと、胸が痛んだ。
「大事なモノが何もないなんて……あるんでしょうか」
私がうっかりもらした問いに、事務長は微笑みを崩した。
「彼は、家族の話をしたがらないから、そういった事も関係しているのかもしれない。
もっとも、私みたいに普通の環境で育った人間には分からない事があっても当たり前なんだろうが」



