例えばここに君がいて


ぐっと拳を握りしめるサユちゃんを見て、ついこの間見かけたボテボテ走りを思い出す。思わずクッと笑ってしまうと、サユちゃんが心なしか頬を染めて俺を睨んだ。


「なぁに、サトルくん、ちょっと馬鹿にしてるでしょー!」

「や、違う違う。サユちゃん、運動オンチなんだなって思って」

「好きで苦手なんじゃないよー。いいから私が走ってるとこは見ないで!」


真っ赤になっちゃって可愛い。もっといじってやりたい気分にもなるけど、あんまりやり過ぎると嫌われるかな。


「サトルくんは速いんでしょ? 陸上部だもんね」

「あー、まあ。遅くはないと思うよ」

「どうやったら速く走れるの?」

「練習する?」


体を屈めて聞いてみると、サユちゃんはビクッとして一歩下がった。


「や、いい。無理無理。運動だけはホント駄目」


そしてそのまま、「じゃあまたね」と教室に入っていってしまう。


失敗した。
近づきすぎると、サユちゃんはぎこちなくなってしまう。

もしかして嫌われてたりするのか?

思いついた考えに自分で落ち込んだ。