「だったら、サユちゃんに優しい顔しなきゃいいだろ」

「そうもいくかよ。俺は担任だからな」


要は、サユちゃんに惚れた男が現れたから、体良くくっつけてしまおうってんだろ?
そんな利己主義な男にサユちゃんが惚れてるなんて思いたくもない。


木下を睨みつけると、ヤツの顔がそっぽを向いて一瞬緩む。


「あ。サユ」



木下の視線の先には、カバンを抱えて昇降口から出てくるサユちゃんの姿があった。なんだ、美術部はそんな早く終わっちゃうのか。


「センセー、さよなら」

「おう、気をつけろよー」


木下を見つけてそういうサユちゃん。俺のことは眼中に入ってない?


「サユちゃん、またね」


大きな声で言うと、サユちゃんは初めて俺の存在に気づいたのか笑った。


「サトルくーん。またねー」


大きく手を降って校門をくぐる。長い髪が揺れて、徐々に遠ざかっていく。


彼女にとって俺はなんだろう。

ただの幼なじみ?
それとも、弟の友達の兄貴?

取ってつけたような関係性はいくらでも出てくる。
だけど、俺はそんな遠回しな関係が欲しいわけじゃない。

欲しいのは、俺と彼女を直接繋ぐ関係だ。


「……絶対負けねぇからな」


ビシっと赤鬼に中指を突き立てる。
少なくとも、コイツにだけはぜってぇ負けたくねぇ!