「こらぁ、お前ら!」
「センセー、見逃して」
「知るか、待てぇ!」
怒り狂う木下先生の足は速い。……のに、颯は私を連れながらなのに小刻みの方向を変えて、先生の死角に入った途端に空き教室に入り込み、隅で息を殺した。
「ちくしょう、どこに行きやがった」
廊下をドタバタと走り去る木下先生の足音が聞こえなくなるまで、私達は顔を見合わせて黙りこくった。
「……行ったか?」
「どうせ明日にはとっ捕まって怒られるのに。馬鹿ね、アンタは」
颯は私をじっと見つめて首を横に振った。
「アンタじゃなくて颯。さっきようやく名前呼んだじゃん」
「あ、あれは焦ってたから。つか、苗字わからないのよ。いつも中津川くんがそう呼ぶから」
「じゃあ知らないままでいいよ。そのまま颯って呼んで」
嬉しそうな顔で笑われるとか、私が翻弄されるとか、ありえないわこの男。
だけど、なんでだろう走ったりもしたからかしら。
ずっと胸にあった葉山先輩へのこだわりとか陰鬱とした思いは、いつの間にか何処かへ行ってしまったみたいだ。
「変な男」
「新見だって変な女じゃん。それより、そろそろ大丈夫だろうから一緒に帰ろうぜ」
「図々しい男ねぇ」
「なんて言われても、俺は諦めないから」
何を言っても聞きそうにないとはこのことだ。
私は呆れるのを通り越して可笑しくなってきた。
「ウザい男は嫌われるわよ」
あっさり否定して見てるけど、それも悪くないかなって気がしてる。
何かがあったようで何事もなかった一日。
でも、私の心には変化があった。
変えてくれたのは、悔しいけれどアンタだ。
「……アイス奢ってくれるなら一緒に帰るわ」
「マジ?」
「高いのをねだるわよ。それでもいい?」
「いいよ。じゃあ行こうぜ。木下に見つからねーように裏口から行くぞ」
こっそり教室に鞄をとりに戻り、一応窓を閉め机の上は片付けていく。
校庭に散らばった分は、明日怒られることとしよう。
コイツと肩を並べて叱られるのも、たまにはいいかもしれない。
二人で学校を抜け出しながら、私は奢ってもらうアイスを思い浮かべてニンマリと笑みを浮かべた。
【fin.】



