例えばここに君がいて



「でもやっぱり笑顔が一番だな」


気障な台詞。
ちょっとは見直したのに、すぐ手を出そうとするなんてなんて図々しいわよ。


「離しなさいよ」

「ヤダ。ちょっとでも嬉しかったんならこうしててよ」

「嬉しい気持ちも今ので一気に飛び去ったわよ」


そのまま、足を踏みつけてやろうとした瞬間、頭上からの声に私の足の動きは止まる。


「……俺、こんなふうに誰かを好きだと思ったの初めてなんだ」


感情を含んだ声というのは、人の心を揺すぶるものだ。
だから、私の心臓が今揺れたのは、きっとそのせい。
間違っても、コイツを好きになったからなわけじゃない。

でも、踏みつけようと思ってあげた足は、元の位置に戻った。

確かに、ちょっと嬉しかったから。
少しだけこうしていてあげないこともないわ。
そうね、あと一分くらいなら。


 まるで時が止まったかのようにじっとする私達に、窓からの風が吹き付けてくる。
と同時に、イノシシの突進のような音が聞こえてきて、私は反射的に颯を突き飛ばした。


「ちぇ、いいとこだったのに」

「何がいいとこよ。それより誰か来たんじゃない?」


こそこそと話していると、その声より大きな声がする。


「誰だぁー! 校庭にゴミをちらかしたやつはぁあ」


この声は木下先生かな。
あの先生足は早いからな。


「やべ。逃げるぞ新見」

「逃げ切れないわよ。おとなしく捕まったほうが賢くない?」

「嫌だね。俺は逃げる。アンタも連れてね」

「ちょ、離し……颯!」


すごい勢いで腕を引っ張られ、教室の机にぶつかりながらも走りだす。