「ほら、早く押せよー」
「なんで?」
「俺がこれもらうなら、代わりに奢ってやろうかと思って」
うわ、カッコつけ。
いかにもモテる男がやりそうなだけになんか嫌。
「いいわよ。自分で払う」
「あっそ。じゃあ」
彼はそのままおしるこドリンクの隣にあった紅茶のボタンを押した。
「これやるよ」
「は?」
「お前はお前で好きなもの買えよ。これは俺がお礼として新見にやるだけ」
颯は有無を言わさず私の手に紅茶を押し付ける。
私は反論が思いつかなくて唇を噛んだ。
何よ、何よ、何よ。
なんで私が負けたような気分にならなきゃならないの。
そこに、聞き慣れた中津川くんの声がする。
姿は見えない。目の前に立つこの男の体が邪魔で。
「おい、颯ー。そろそろ行くぞー」
「ああ、やっぱり二人で帰れよ。俺用事ができた」
「なんだよ待ってたのに。まあいいや、……じゃあ行こう?」
中津川くんの声が、途中から優しく穏やかになる。
「……私、待ってないほうが良かったかな」
「そんなことねーって」
密やかな会話は、恋人同士のものだ。姿なんか見えなくても彼の隣にいる人間が誰なのか分かる。
眼前に迫る背中を見ているとなんとも言えない気持ちになる。
“目の前に立ちふさがるという行為に、別の意図があったのだとしたら”
深読みすればするほど胸が疼く。



