例えばここに君がいて



向かう先は隣の駅から徒歩十分の彼女の家。往復してメシもくったりした時間もあるから、もう夜の十時近い。


「はぁっ」


マンションの前まで来て、携帯に電話をかける。


『もしもし?』

「サユちゃん?」

『サトルくん? あの、さっきは……』

「会いたいんだ」


彼女の声を遮るように一気に言う。


『え? でも』

「今下にいるから、出てきて」

『ええ? 今? でもあの、……どうして』


戸惑った声が、耳元で揺れる。
わかってるよ、さっきも会っていたのに、また会いにくるなんて普通に考えたらおかしいしウザい。
でも俺は会いたかった。今君に言いたいことがある。


「どうしても会いたくなったから来たんだ」

『……サトルくん』


ちょっと待ってて、といい電話は切れ、数分後小さな人影がエントランスから出てくる。


「サトルくん?」

「サユちゃん。ごめん、おじさんたちに怒られなかった?」

「ううん。大丈夫、それよりどうしたの」


近づいてくるサユちゃんは私服だ。Tシャツにパーカーを羽織っただけのラフな服装。もう風呂も入った後だったのか、髪が少し湿っている。


「あの絵の提出日っていつなの?」

「え? えっと、一週間後」


捻挫が良くなるのがいつぐらいだろう。全治一週間とか言ってた気がするけど。


「間に合う?」

「大丈夫だよ。土日もあるし。腫れが引いたら描き始めるから」


サユちゃんは気遣うように笑う。俺はその肩に手を乗せた。