「母さんはすげぇだろ? それが、俺には眩しくて、自分が情けなくなっちゃったんだよな」
「父さん?」
「一緒に入る資格なんてないって思って、俺は母さんから離れたんだ」
初めて聞く両親の恋物語。父さんの感情に、自分に共通するものを感じて胸の奥が震える。
「……でも、また戻ったから俺達が生まれたんだろ?」
「そうよ。勝手に思い込んで離れるとか馬鹿よ。アンタも捻挫くらいで落ち込まないほうがいいわ」
「でも」
「それ以上のものを、彼女に与えてあげればいいのよ」
うちの女性陣は強い。
前から思ってたけど、母さんはすげぇ前向きだ。
「できるかな」
「さあ、それはアンタ次第だけどさ。でも付き合ってはいるんでしょ」
「うん……あ」
思わず素直に頷いてしまって、俺は一気に赤くなる。
「ちょっと見た? あなた。やっぱりこの子とサユちゃん付き合ってるんだって」
「凄いなぁ。何年ものの純愛だよ」
「うるせぇ! 冷やかすな!」
真っ赤になって、叫んで。
でもすっきりした。
母さんの言う通りだ。
終わったことを嘆くより、これから先のことを考える。
彼女からいらないって言われたわけじゃないなら、落ち込むのは馬鹿げている。
「俺、出かけてきていい?」
「いいけど。どこに行くの?」
「ちょっと」
「……気をつけて行くのよ?」
曖昧に行った行き先を、母さんは詳しくは聞かなかった。
きっと想像ついているのだろう。
玄関先でバタバタと音を立てる俺に気付いて、ルイとイッサもやってくる。
物言いたげなルイを制するように、イッサが俺の腕を触った。
「にーちゃん、行ってらっしゃい」
その手が妙に温かくて、勇気をもらったような気分になる。
小遣いもらったらまたケーキでもおごってやろうなんて思いながらイッサの頭をワシワシと撫でた。
「うん、行ってくる」
俺は財布と携帯だけを持ってかけ出した。



