例えばここに君がいて



「……最低だ」

「サトルくん?」


心配そうに近寄るサユちゃんの肩を掴む。


「なんで、……俺に噂のこと言わなかったの?」

「え? だって。根も葉もない噂だし。私、傷ついたりしてないよ?」

「嘘だ」


悪意のある言葉に、傷つかない人間なんていない。
サユちゃんは昔から、笑ってそれを受け止めて。自分が傷ついてることにどんどん鈍感になりながら。


「絶対、傷ついてないなんて嘘だ」

「サトルくん」


彼女の戸惑う声が、耳元に響く。


「おい、サトル。教師の前でイチャつくのは止めろって。サユは大丈夫だよ。強いんだから」


俺を引き離そうとする木下の手を、思いっきりはたき返す。


「そうやって周りが勝手に決めるなよ!」


弾かれた手をさすりながら、木下が俺をマジマジと見る。


「強くたって泣かなくたって傷ついてないわけじゃない!」


そうだよ。だから昔からサユちゃんが気になっていた。

笑ってる? 
それは本当に?

キミは笑顔を作るのが上手すぎる。
心を死んでしまう前に、どうにかしてキミを守りたいって、ほんの小さなガキの頃から思ってた。


「俺に守らせてよ」


どうやったら守れるのかなんて分からない癖に、その想いだけが体中から沸き上がる。