例えばここに君がいて



「何があったんだ?」

「聞けよサトル。新見のやつ、サユちゃん先輩のこといきなり殴ったんだぞ?」

「新見が?」


驚いて新見の方を見ると、彼女は赤い目で俺を睨んだ。


「なんで」

「それは中津川くんには言う必要ないでしょ。理由は葉山先輩に言う」


俺達の喧嘩腰の会話に、サユちゃんは焦ったように間に入ってくる。


「やめて、サトルくん。新見さんも。喧嘩しないで。私わかってるから。新見さんは理由もなくこんなことしないって」

「相変わらず偽善者ね、先輩は」


新見が鼻で笑ったその瞬間、扉の前に木下がやってくる。


「おい、サトル。……あれ、どうしたお前たち」

「先生」


教師の登場に、事態は一層緊迫する。
木下は俺達一人一人を見回し、真っ先にサユちゃんの傍へ近づいていった。


「どうしたサユ。怪我したのか?」


サユちゃんの頬を確認しようと、木下が彼女が頬を抑えている方の手を掴もうとする。その行動に胸の奥がざわついた。


「あ、職権濫用!」


夏目が呟いた言葉に俺も同意しつつ見つめていると、サユちゃんが突然、木下の手を払った。


「触らないで!」

「サユ?」