例えばここに君がいて


 三階の窓の空いている教室から、その声はした。


「止めろって」

「うる……わね」


新見の声?
喧嘩してんのか? あいつら。

風にのってくる声はところどころ聞こえない。
多分あそこは三年三組で、今日は委員会があったはずだけど。
もう結構時間経ってるし、終わったのか?


「ヘラへラ笑ってじゃないわよ」


その言葉に、ピンときて俺は駆け出す。


「おい、サトル?」

「こら! 部活中にどこに行く」


駆け出した俺を、木下が追いかけてくる。
おっさんなんか撒いてやるって思うけど、腐っても体育教師。足は速い。


「説教ならあとで聞きます!」

「どこ行く気なんだよ、サトル」

「いいから! 生徒のプライベートにまで関わるなよ!」

「うおっ」


問答しながら階段を駆け上がり、追いつかれたタイミングで軽く押し返すと、木下はバランスを崩して手すりに捕まった。
その隙に俺は駆け出し、扉の開いた状態の三年三組に入り込む。


「……っ、おいっ」

「サトル?」


肩で息をしながら教室の中を見ると、先ず見えたのが振り向いた夏目の姿だ。
もっと窓際よりに、険しい顔をした新見と、頬を押さえて顔を強ばらせているサユちゃんがいる。


「サユちゃん?」


俺の呼びかけに、サユちゃん見て分かるほど体を硬直させた。
新見はそっぽを向いて、夏目がやたらに焦っている。