例えばここに君がいて


周りの人は、けたたましく騒ぐ俺達を遠巻きに見ているから、ちょっとした空間が開いてしまっている。
これは確かに恥ずかしい。早く退散しなければ。


「顔、血がでてるわ。手当しなきゃ。行きましょ」

「行きましょってどこに」

「うち。この近くなのよ。あ、うちが嫌なら和晃の家にしましょ」

「あ、ああ」


マジか。学校まで徒歩圏内じゃん。
ずいぶん近くに住んでいたんだな。 


「でも別にいいよ。ちょっと血が出たくらい」

「ちょっとじゃないから言ってんのよ。今ここだけスプラッターな感じよ」


そう言うと、新見は有無をいわさず俺の腕を掴んで歩き出した。


「スプラッターなら病院いかなきゃじゃないのか」

「もう閉まってるでしょ。救急車呼ぶほど酷そうなわけじゃないわ」

「あっそ」


冷たい口調ながら、腕を引っ張る手は温かい。

だけどこの構図、ちょっと親密過ぎないか?
俺はなんだか恥ずかしくて、掴まれている腕を乱暴に外す。


「つか、捕まえてなくてもついていくから離せよ」

「あらそう」


そこから何度か道を曲がり、5分ほど歩いたところにある一軒家の前で新見は止まり、携帯電話をいじる。


「あ。和晃? 今アンタの家の前にいるんだけど、入ってもいい? え? いないの? はぁ? チッ使えない男ね」


舌打ちが入ったぞ。相変わらず怖い女だ。


「和晃いないらしいわ。じゃあもうちょっと歩いて」


そこから三軒隣の家に今度は止まること無く入った。
表札を見ると『新見』と書いてある。どうやらここが彼女の自宅らしい。