*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

背後から野太い声をかけられた瞬間に、汀は短い逃避行が終わったのを知った。






懐に隠れている青丹丸がぴくりと反応し、飛び出そうとしてきたが、「だめよ」と小声で制する。







(…………やっぱり、そんなに上手くはいかないわね)









小さく息を吐き出すと、汀は露草を背後に庇い、凛とした声で言った。








「………私はもう逃げも隠れもしないわ。



だから、乱暴はよしてちょうだいね」









その澄んだ声音と、真っ直ぐに向けられた薄花色の瞳に、男たちはたじろいだ。







「…………さあ、邸へ戻りましょう」







はっと我に返った一人が、汀の腕をつかもうとしたが。







「なりません!」







露草は後ろから、男の手をぱちりとはたいた。







「…………姫さまにお手を触れることは、許されません。



お逃げにならないとおっしゃったでしょう。




このまま、姫さまをお守りしながら行くのです」







毅然とした態度に、男は恥じ入ったように目を伏せた。