「皐!」

「ひまりっ…」

「皐、走ってこなくてもいいのに」

「走るに決まってんだろ?狼と一緒なんだから」

「狼…?狼なんかいないよ?」









肩で息をしてる皐。


そんな姿もカッコいい。

でも、狼なんかいないよね?

幻覚でも見たのかな?










「秦、なにもしてねーよな?」

「さぁな?…お前こそ」

「……っしてねぇよ」








一瞬言葉に詰まった皐。


……なんかあったんだ。

今に始まった事じゃない。

でも…やっぱり嫌だよ。









「ひまり」

「うん?」

「今日は楽しかった。ありがとな」

「わっ…あたしもっ」







あたしの頭をクシャと撫でた秦。


優しく微笑む秦。

……もう、終わっちゃった。

朝はなかった眼鏡をかけてる秦。


やっぱり似合ってる、黒。








「やっぱり黒、似合ってるよ」

「そうか?ひまりが選んでくれたやつだし、大切にするよ」

「えへへ…」

「じゃあな」

「うんっ」








片手を上げて帰っていく秦。


その後ろ姿がなんだか寂しそうで胸がキュウッと締め付けられた。


ギュって駆け寄りたくなった。


ポケットから出てるキーホルダー。


……あたしとお揃いのキーホルダー。









「…帰んぞ」

「わっ……」

「繋ぐの久しぶりだろ」








恋人繋ぎをしてるあたしの手と皐の手。


……どうしても秦を思い出しちゃう。


悲しく笑ってる秦、無邪気に笑ってる秦、真剣な秦。


……手を繋ぐときに少し震えてた秦の手。








「ひまり?」

「あ、ごめんねっ。」

「別に……そのキーホルダー気に入ってんの?」

「うん……秦とお揃いなんだよ」

「……お揃い?」








ピクッと反応した皐。


あたしなんか悪いこと言ったかな?

言ってないよね?








「お揃い、のやつがそんなに気に入ってんの?」

「うん。今日の記念にってくれたの」

「…へぇ。」

「……えへへっ」








このキーホルダーを見るたび頬が緩む。


きっとこれを見るたび今日のことを思い出す。


嫌なことだって辛いことだって乗り越えられる気がする。


秦がくれたからかな?

だから、安心しちゃうのかな。









「…お揃い、買お」

「へ?」

「秦とのお揃い外して俺とのお揃いつけろよ」

「皐…?」

「早く、あの店でいいよな?」








グイッと手を引っ張られて走り出す。



…皐、どうして悲しそうな顔してるの?


どうして気に入らない顔してるの?


――あたしなんか、どうでもいいんでしょ?