「なんでもない」

「…なぁ」

「んっ?」

「俺はさ、ひまりの話を聞いてやることくらいしか出来ねぇわけだよ」

「え?う、うん」

「なのにさ、話も聞かせてもらえなくなったらどうすればいいわけ?」

「…っ…ちが、う…」

「わかってる。そんな意味で言った訳じゃないんだろ?」

「うんっ…」







言わなくたって秦にはわかってしまう。

……今、秦と皐を比べてたなんて言えるわけないもん。

最低じゃんか…そんなの。







「皐のことなんだろ?」

「……っ」

「俺、皐の親友だしさ。悩んでるなら言って。力になれねぇかもしんないけど」

「そんなことないよっ…!」

「え?」

「秦は、たくさん…たっくさん勇気、とか力くれたもん…!」







だから…そんなに自分を卑下しないで?

秦は、あたしを救ってくれてるんだよ?

ありがとうって気持ちでいっぱいなんだよ?

伝えても、伝えきれないくらい感謝してるの。








「…ひまり…」

「だから、元気出して…」

「サンキュー。…やっぱ、ひまりは俺の元気の源だわ」

「へっ!?」

「ひまりの笑顔見ると、なんかパワー湧くわ」

「そ、そんな」

「きっと、皐もひまりの笑顔に救われてるよ」








そう言ってあたしの頭をポンッと叩く秦。


……大きい、手だなぁ。

あたしと全然違う。

やっぱり男の人なんだ。

皐のように。








「イルカショー♪」

「……あれ、中止?」

「…………」

「イルカ体調悪いってよ」

「…う〜楽しみにしてたのにぃー!」

「駄々こねるな。…しゃあねーな。」

「……?」

「イルカショーじゃねぇの見に行こ」

「……うん」

「拗ねるな。」

「…だって」

「イルカ、見てねぇだろ。まだ」

「あっ!」

「ひまりはイルカが見たいんだろ?」

「うんっ!!」

「はい、じゃあ決定!」

「ふふん♪」

「ん。」

「……ん?」







手を差し出してくる秦。

荷物?

でもあたしの鞄しかないし。







「手だよ、バカ」

「なっ…ってバカって言われたの久々な気がする…」

「そーだっけ?」

「中学の時はいっつもバカって言われてた!」

「今でも思ってるし」

「なっ!!」

「鈍感だし」

「あたし鈍くない」

「鈍いって。…あそこまで言ったのに」

「なに?」

「なんでもない」







中学の時はいっつも幸せだったなぁ。

思い出したくない、記憶。

…中学の時は幸せ過ぎたんだ。

いつも皐は側に居てくれて。

付き合ってもないのによく家まで送ってもらっていたし。

――幸せ、だったなぁ。