加持は後先も考えず重大なことをしでかした九鬼を責めなかった。

 なぜ九鬼がそのようなことをしたのか。

 ここまで彼の子供への思い入れが分かれば、その理由は理解できる。


「……そりゃあ、我が子が異国の化け物に手足をもぎ取られて殺されるのを、指をくわえて見ているわけにはいかなかったでしょうね。
貴方としては」

「俺がいつ、そんなことを言った?
その時に俺が何を考えていたかは、おのれ自身で考えよ」

「そうしましょう」


 加持は瞼を伏せ、ふ、と柔らかく微笑を浮かべる。

 九鬼はわざとなのか本気なのか、ふん、と鼻を鳴らして悪態をついている。


「……気にしないでくれ、加持よ。
鬼は本来嘘などつかんが、九鬼は、すこし捻くれておるのだ」


 九鬼の肩を軽く叩きながら、空亡は言う。


「酒童を人に戻すための演出とはいえ、妖どもの前でああ宣言したからには、これ以上、酒童嶺子を鬼に近づけることはしてはならぬぞ。
こちらも、もう九鬼が手出しできぬようにする」

「有言実行に励みます」


 淡々と返すと、加持は所持していた刀を腰帯から鞘ごと抜き、


―――かちん、と、鍔と鞘を勢いよく当てて音を鳴らした。


“金打(きんちょう)”


 遥か昔に存在した“武士”の、誓いの印である。