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 槿花山にそびえ立つ城の周囲には、かつて4つの門があった。

 しかしこの山が観光スポットとなるころには、空襲やら災害やらで、とうとう、あの荘厳な松の門はひとつとなってしまった。

 そんな門の外で、加持は門の扉に背を預けていた九鬼と、その隣にふわふわと浮かぶ空亡に一礼する。


「まあ、そうかしこまるな」


 空亡は厳格な無表情のわりに柔らかな語調で言った。

 空亡が引き連れる妖たちは、とっくのとうに自分たちの棲家へと還ってしまっていて、この城から門までの敷地内にいる妖は、空亡と九鬼だけである。

しかし加持はそれでも、妖の大衆を前にしていた時と同じ態度で、「いいえ」と首を振る。


「なにせ、羅刹側の人間、および貴方がたが引率する妖全員を騙す計画です。
失敗すれば、酒童は自分が鬼か人かの判断がつかぬまま、ずるずると本能を背負って生きて行くこととなったでしょう。
そして、貴方の妖からの信頼も崩れたはずです」

「吾を見くびっておるのか、加持よ」

「いえ、そんなことは。
ただやはり、人間である羅刹はともかく、妖をも騙す計画というわけですから」