愚弄された白澤は、その死人のように白い額に青筋を浮かべる。
そんな白澤をよそに、九鬼なる鬼は、飄々として妖たちの視線を浴びながら羅刹の席へと歩み寄る。
「久しいなあ。え?」
九鬼が誰にその言葉を向けたのか、酒童にはわからない。
しかし彼は今までの妖たちとはずいぶんと違い、どこか態度が悪し様で、不良じみている。
「お前は」
鬼門がぼそりと独り言を言う。
その独り言に、酒童は胃を締め付けられる。
鬼門は相手がどんな人物でも、決まって相手を「あなた」と呼ぶほど、言葉は丁寧だ。
そんな鬼門が「お前」と呼んだのだ。
相当、鬼門に恨まれているか、鬼門にとって「あなた」と呼ぶに値しない人物なのだろう。
「班長?このひとは……」
酒童は蚊の鳴くような声で鬼門に話しかける。
しかし鬼門は、九鬼に気を取られているのか馬耳東風である。
「なにをしに、ここに来たのです?」
鬼門は九鬼に問う。
すると九鬼は「はあ?」と口を開けて、鬼門を白眼視する。
「俺に、ここに来てはならん理由でもあるのか?」
「あなたはかつて、われわれ人間に彼の“親権”を譲ったはずです。
あなたは自分の子をいともたやすく手放した。
私はその時、あなたに、もう彼に関わるなと言ったでしょう。
あなたはもう、レイジとは無関係です」
「親権が無かろうと無関係であろうと、あいつと俺の血が繋がっているのは確かさ」
九鬼は、にやっ、と美貌を薄汚く歪めた。
―――刹那。
どん、と―――九鬼の至近距離にあった鬼門の体が吹き飛ばされた。
華奢な痩身は、トラックにぶつかったかのように宙を舞い、檜でできた壁に強かに体を打つ。
「うっ」
鬼門はうずくまり、腹を押さえて咳き込む。
どうやら鳩尾を殴られたらしい。


