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 槿花山の頂上には、これはまた豪華な金製の装飾がなされた、古城の再建造物が佇んでいる。


 その昔、“天下統一を目指した男”が建てたのだという、東海三県のうちひとつの、県の名がついた城だ。


 その城は、昼の間は見物客もきて、そこそこ賑わっている。

 ロープウェイの設備や、菊の展示に和みの茶屋。

 リスと触れ合える場もあるということで、小さなお子様連れの者も多く訪れる。
 
 しかしそんな槿花山だが、不思議なことに槿花山一帯の地区は、他の地区よりも西洋妖怪の数が格段に少ない。


 ……いや、少ない、というのは語弊であった。


 いると言えばいるのだが、それらは現れた途端に殺されるのだ。


 この山は、今や夜となれば“妖の城”へと姿を変える。



 ぐしゃりと音を立て、首から上を金棒に叩き潰された西洋妖怪が血の海を作る。

 首が潰れた死体は、それひとつのみではない。

そこらじゅうに、西洋妖怪の死骸が転がっているのだ。


「……まずい。まずいわ」


 西洋妖怪の肉塊をひと口はみ、闇にとろけた巨体は呻いた。


「“ヒト”のやつめ、こんなまずいものを食っておるのか」


 そう悪態をつく巨体は、どうやら体全体が黒いらしい。

 一見すればなにも無い闇の中から、その巨体が地面を踏みしめる重量感のある音がした。

しかしその音が立つ場所には、翡翠の珠のような目玉がふたつ、ぎょろぎょろと動いている。


「……相も変わらず暴れ者よの、九鬼(クキ)」


―――名を呼ばれ、西洋妖怪を潰した巨体はその声のした方向に身体を傾ける。

 この山は木に覆われており、月光など僅かばかりしか入ってこない暗黒だ。

しかしその声がする場所には、丈が人ほどの、ぼんやりとした白光が浮かび上がっていた。
 

「ほう」


 九鬼と呼ばれた巨体のそれは、にちりっ、と黄色い牙を剥く。
 

「久しいなあ、空亡」


 白光の中から現れた子ども……もとい妖の頭領・空亡は、気味の悪い笑みを浮かべる九鬼を睨みつけた。


「なにが“久しいなあ”じゃ。
いま、おのれのせいで剣呑な事態になっておるのだぞ」


 空亡の怒りを含んだ声と共に、その背後から無数の灯火が発生した。

 油もろうそくもないのに、その青い炎はひとりでに浮いている。

 
 鬼火である。



 鬼火が現れたと共に、それを取り巻くように霧がかかる。


 ひゅうどろ、ひゅうどろ、と。


 鬼火と濃霧が一帯を包むと、その霧の中からは、ぞろぞろと複数の影が湧いて出た。