その時、


「あ、班長たちだ」


 茨が山のほうを仰いだ。

 建物の頂を渡って、羅刹たちがこちらにやってくる。

西洋妖怪の討伐はもう後の祭りだが、どのみち、上層部の羅刹は、この異常事態を調べる必要があるだろう。


「鬼門班長!」


 茨が声をあげると、先頭を走っていた羅刹が、酒童たちの前に降り立った。

三つ編みに結われていない、麗しい黒髪が揺れる。

 鬼門は冷徹な眼で西洋妖怪の死体を捉えつつ、抜きかけていた刀を鞘に収める。


「……いったい、どういうことです」


 誰にもわかるはずがないことを、鬼門は尋問せんばかりに口にした。


「それは……俺たちにも、わかりません」


 酒童が答えると、鬼門は真横にある魚の死体を踏みつけた。

すると踏まれた死体は、瞬く間に霧となって掻き消えた。


「―――突然変異、か。もしくは……」


 鬼門はぶつくさとなにか呟き、扇のようにして広がった黒髪をひとつにまとめた。


「そこの3人」


 鬼門は髪をひとつにくくった後に、従えてきた他の羅刹が到着するよりも先にこう告げた。


「今晩、緊急で見廻りを行いましょう。
だがあなたたちは、例外です。
至急、私と一緒に、地区長へ報告に向かいなさい」


 それは、できる限り「今から来い」と言っているも同然だ。

 天野田は恬としていたが、酒童と茨は顔を見合わせた。

 2人とも、他の人と遊びにきていた身である。

なにも言わず、急に別れるのはいけない。


「じゃあ、親と友達に電話だけしていいですか?
友達と遊びにきてたので……」


 茨の言い分を聞くと、鬼門は深くうなづいた。


「いいでしょう」


 承諾した班長は、さっと踵を返すや、


「呪法班に連絡なさい」


 と、班員に指示を仰いだ。


 酒童は携帯電話を悲しげに見つめたまま、陽頼がいまどんな顔をしているのかを想像した。

 あまり電話をかける気にはならなかったが、年貢の納め時とばかりに、酒童は陽頼に電話をかけた。