「何か不具合ですか?」

「ああ。リーダーで読んでも個人認証出来ないんだよ」


なるほど。この会社の社員はみなIDカードを持っていて、社屋に出入りする時の簡易認証に使用する他に、データベースにアクセスしたり経理処理を行う時の個人認証、つまりその人が本当に本人かどうかの認証に使用している。

パソコンに接続したカードリーダでIDカードを読み込むのだけど、それがうまく行かない事はよくあって、原因は様々。それを探るには順を追って検証していく必要がある。


「初期設定は済んでいますか?」

「当然」

「パスワードを連続8回間違った事はありませんか?」

「ないね」

「ソフトウェアは最新ですか?」

「もちろん」

「パソコンを変えてもダメですか?」

「あのさ……」


私がマニュアルに沿って質問をしていたら、男はさもうんざりしたような顔で私を見た。


「俺、一応SEなんだよね。マニュアル通りの質問はやめてくんないかな? バカのひとつ覚えじゃあるまいし」

「まあ……!」


それって、私がバカだって事!?

キーッ。あったまに来た!


「たぶんサーバーの情報が変な事になってると思うんだよね。だからそれを見てほしいわけ」


落ち着くのよ、私。言われてみれば、確かにこの人が言う通りかもしれないしね。


「わかりました。ではお預かりします」


私はがんばって気持ちを静め、男からIDカードを受け取ると自分の席へ向かった。