そう言って、彼女は深く頭を下げた。
袖の破れた着物。乱れた裾に、ほつれた黒髪。
綺麗に塗られたお白粉も紅も崩れてしまっている。
・・・・・・
ふと、思い出した。
奥方の最期の姿。
生まれた時から権力闘争に巻き込まれ、全人格を否定され続けた奥方。
決して手には入らぬ、真実望むものに頭上高く手を掲げ、ついに地に堕ちた人。
月に手を伸ばしたあの時の姿と、今の塔子さんの姿が重なる。
門川君を守ると塔子さんは言う。
奥方が殺してしまったお母さんの代わりに、彼を命に代えても自分が守ると言っている。
償おうとしているんだ。
塔子さんのほつれ毛が冷たい風に靡くのを見て、思う。
あぁ、この人も背負っている。
罪を。
そして悲しみを。
奥方の罪は奥方のもの。決して塔子さんのものじゃない。
塔子さんと奥方は、ただ血が繋がっているってだけのことだ。
奥方だって、周囲の大人が犯した過ちに巻き込まれてしまったのが原因。
それでも、罪の波紋は広がる。
皆、自分が犯したわけでもない罪に苦しんで生きていく。
そしてそれは続いていくんだ。
・・・これはまさに悲しみというべきものなのだろう。
「うん、行こうよ塔子さん」
塔子さんの固く引き締まった表情が、ふっと動いた。
行こう、塔子さん。
決してあなた自身の罪ではない。だから、あなたが罪を償う事じゃない。
それでも、ずっと胸を疼かせる痛みが少しでも和らぐのなら。
少しでも、あなたの悲しみが癒されるというのなら。
・・・それはさ・・・償っても『悪い』ことにはならないよね?
「一緒に行こう。塔子さん」
「・・・・・・えぇ、里緒」
顔を上げた塔子さんの、その目は。
きっと、今のあたしと同じ目をしていることだろう。
袖の破れた着物。乱れた裾に、ほつれた黒髪。
綺麗に塗られたお白粉も紅も崩れてしまっている。
・・・・・・
ふと、思い出した。
奥方の最期の姿。
生まれた時から権力闘争に巻き込まれ、全人格を否定され続けた奥方。
決して手には入らぬ、真実望むものに頭上高く手を掲げ、ついに地に堕ちた人。
月に手を伸ばしたあの時の姿と、今の塔子さんの姿が重なる。
門川君を守ると塔子さんは言う。
奥方が殺してしまったお母さんの代わりに、彼を命に代えても自分が守ると言っている。
償おうとしているんだ。
塔子さんのほつれ毛が冷たい風に靡くのを見て、思う。
あぁ、この人も背負っている。
罪を。
そして悲しみを。
奥方の罪は奥方のもの。決して塔子さんのものじゃない。
塔子さんと奥方は、ただ血が繋がっているってだけのことだ。
奥方だって、周囲の大人が犯した過ちに巻き込まれてしまったのが原因。
それでも、罪の波紋は広がる。
皆、自分が犯したわけでもない罪に苦しんで生きていく。
そしてそれは続いていくんだ。
・・・これはまさに悲しみというべきものなのだろう。
「うん、行こうよ塔子さん」
塔子さんの固く引き締まった表情が、ふっと動いた。
行こう、塔子さん。
決してあなた自身の罪ではない。だから、あなたが罪を償う事じゃない。
それでも、ずっと胸を疼かせる痛みが少しでも和らぐのなら。
少しでも、あなたの悲しみが癒されるというのなら。
・・・それはさ・・・償っても『悪い』ことにはならないよね?
「一緒に行こう。塔子さん」
「・・・・・・えぇ、里緒」
顔を上げた塔子さんの、その目は。
きっと、今のあたしと同じ目をしていることだろう。


