◆真山side2◆

それから、遠慮がちに俺の好意を受け、
後ろを歩く彼女が話しかけて来た。


「あのっ」
「ん?」
「アテがあるんですか?」


なんでそんなことを急に言うんだ?

俺は半身を向けて、淡々と答える。


「アテ? いや、ないけど」
「え? そうなんですか?」
「なんで?」
「いえ……迷いなくこっちに歩き始めたので……」


その子は俺に萎縮したのか、自信なさげにボソボソと言う。

よく、人のことみてんだな。

あいつも、人のことをよく感じ取るけど――でも、こういう場面だったら、多分なんにも考えずに、ただ前を歩くだろうな。


「あっちの方が、人が流れてってるから」
「は?」


俺はその子の返事で梨乃を思い出したあと、首を傾げてる彼女に、説明した。


「きっと単純に。人波に逆らうよりもこの流れに乗って進んでる」
「あ、ああ! そういうことですか」


すると、彼女は交錯する人の流れを見た。

坂道を昇る側の人が多く流れていて、その人々を見つめながら、ぽつりと独り言のようにその子が言う。


「でも、本当にそんなに単純でいいのかな……?」
「ふっ」


その俺の堪えきれなかった笑いに、恐る恐る視線を俺に向けてきた。

ちょっと強張った表情から察すると、『マズイこと言ってしまったかな』という感じだ。

俺は彼女のその誤解を解くべく、話を続けた。


「“単純”なんだ、あいつ」


単純明快、とでもいうのか。
あんな、計算しやすいやつ、最近いないしな。

ああ、でも。

2年前(あの頃)は、予想外の行動をしたりしてたか。
突き放しても突き放しても、食らいついてきて。

――それもまた、自分の気持ちに正直で真っ直ぐな……単純さでもあるか。


「どんな人なんですか……?」


脳裏で梨乃を思い浮かべていると、そんな質問が飛んできた。

俺はどう答えようか考えながら、また梨乃を思い出しては苦笑した。