「驚きました」


その人も目を丸くしてそう言った。


「私も、驚いてます」


同じく私も目を丸くしたまま、ぽかんとしてると、その人が「くす」っと笑って人の流れていく方を指差した。


「あっちの方に行ってみますか」
「あ、はい」


その先は緑が茂る木々の並ぶ道。

私はセンセイを。少し前を歩くこの人は、彼女の姿を逃さないように、辺りを見ながら話をする。


「そんなに前からの知り合いということは、同級生ですか? 幼馴染みとか? それとも――……」


そう言われたら、なんだかもう私とセンセイの関係がばれてしまってるような気がして、私は少し躊躇い気味に答えた。


「あまり人には言ったことないですけど」


――――いいよね、別に。
私たちのことなんて知るわけもないし、今後また会うこともきっとないだろうし。

なにより、私、もう卒業してるわけだし……。


「高校の先生でした――数学の。そして担任でもあった人なんです」


ぽつりと私が言うと、ぴたりと足を止めた彼が、ぐるっと勢いよく振り向いた。
その顔はさっきと同じような、“目を丸く”した顔。


「……え? もしかして」


そういう私もきっと、目の前の人と同じような顔してるはず。
ていうか、さっきからこんな顔をお互いにしっ放しだ。

私は驚いた顔をしてその人を見上げると彼は頷いて見せた。


「――僕は国語の教師です」
「や、やっぱり、先生なんだ……じゃあ――」
「はい。捜し人は、僕の元・教え子です」


包み隠さず、見知らぬ私に言い放つ。
こんなに胸の内を曝け出してくれる人なら、普段もきっと、色々と言葉を紡いでくれるんだろうな。


「じゃあもしかしたら、きみの“先生”と僕は会っているかもしれませんね」


きっと話のタネにそういってくれたのかな。
だけどそこまで偶然が続くわけない。

……普通なら。


「いや……でも、僕をはじめ、都内には数えきれないくらいに教師はいるから」
「そうですよね……でも、なんか繋がってる気がする」


そう。なぜだかそんな気がして。

だからなんか、なんとなく――センセイの名前を勝手に出すのは、と躊躇した。