唇が、覚えてるから


そう言うと、優しい笑顔に変わる。

親指で、私の頬に流れる涙をぬぐった。


「俺の命を背負えなんて言わない。ただ、今ここにあるひとつの命を大切にしてほしい。

明日が来ることを当たり前だと思わないで。生かされてる今を一生懸命生きて。

……そしてそれを伝えてくれよ。命の重さのわかる、人間の気持ちのわかる琴羽なら、それが出来るはずだから」


その顔は、死の恐怖なんて超えているように見えた。


「生きろ」

「……」

「生きるんだ、琴羽」


祐樹は、強い。

初めからずっとそうだった。

私に出会った時から、その悲しい運命を背負っていたのに。

ずっと私を励まし続けてくれていた。


辛いのは、祐樹なのに。

生きられる私の為に、今だってこんなに必死になって。


「母さんのこと、わかろうとしてくれてありがとう。母さんと同じ時間を共有してくれて、ありがとう。琴羽に担当してもらえて本当に良かった。

……琴羽は……この先もずっと、患者さんの希望になってやってくれよ」