唇が、覚えてるから



今日も忙しく一日が過ぎていった。

実際の所、失恋の傷に病んでいられるほど、暇じゃない。



「これ、五十嵐さんがやってくれたの?」

「はい」

「先が読めるようになって来たのね。あなたもやれば出来るじゃない」


……普段は褒められることなんてないのに。

普通なら誇れるような先輩からの言葉が、素直に喜べなかった。


「……ありがとうございます」


確かに気を張っていた部分はあると思う。

何かしていないとという思いが、余計に仕事へとかき立てたから。

ただ無我夢中で実習に励んでいた。




でも、この日初めて意識がそれたのは。

先輩看護師さん達が話している内容を、偶然にも耳にしてしまったときだった。