唇が、覚えてるから


「琴羽ちゃん、つまらない?」


その男の子が遠慮がちに距離を縮めてくる。


「あっ…ううん。そんなことない。えっと…」

「俺、海翔(カイト)。さっき自己紹介したんだけどな」


名前を思い出せなくてどうしようかと思っていると、気を利かせた彼はもう一度名乗ってくれた。


「……ごめんなさい」


みんなの名前、右から左に抜けてた……。

祐樹がいなかったことで、さっきからテンションが下がりまくりで、早く帰りたいとさえ思っていたから。


「いーのいーの。俺っていつも影薄いし」


人懐っこそうな笑顔で頭をかく海翔君。


「そういう意味じゃないの!」


失礼なことをしてしまったと、あわてて否定する。