まぬけだよな。 いつも私はどこか抜けている。 綺樹はくちびるに笑いを作った。 バッハの静かなピアノ曲が流れてくる。 あの夜と同じパルティータ。 あの背中と月を瞼の裏に蘇らせる。 煙草をくゆらせ、水割りに口をつけた。 頭を仰け反らせて、窓越しに空を見上げた。 今夜は月も見えないのか。 自分と同じ。 真っ黒だ。