日向さんは、紅茶を一杯飲むと、薫瑠さんの顔色を伺うこともせずに、一人で話し続けていた。

「……そろそろ寒くなってきたので、家に戻りませんか?」

薫瑠さんは、外が少し暗くなった頃に、立ち上がり空のカップをもった。

「そうですね。…それに、少し暗くなってきましたし…」

私も、薫瑠さんに続いて立ち上がり、空のカップを手に持つ。

日向さんは、立ち上がった薫瑠さんを、上目遣いで見ていた。

「……そうだね。BC優さんが、また風邪でも引いたら、とても困りますからね」

「……そ、そうですね…」

日向さんは、私にニッコリと微笑む。

………笑っているようで、とても笑っていない笑顔……。

「……じゃあ戻りましょうか」

日向さんが、立ち上がると、薫瑠さんは私達に声をかけて歩き出した。

私と日向さんは、薫瑠さんに着いていくように後ろを歩いた。

家の中に入ると、暖かい空気が身体を包み込む。

「あぁ!やっと見つけた!日向兄ちゃん、お父さんが探していたよ!」

リビングに向かうための廊下を、三人で歩いていると、前から翔君が走って向かってきた。

「えー………。…正座の刑ですか?」

日向さんは、面倒くさい、と言わんばかりの表情で翔君に聞く。

「ううん!違うって!」

日向さんの疑問に、翔君は笑顔で首をふった。

「…そうですか。…あ、BC優さん。晩ご飯、食べ終わった後、僕の部屋に来て下さい」

「…………?…はい、分かりました」

日向さんは、そう言うと私にカップを持たせて、おじさんの所へ向かった。

その後、薫瑠さんと二人でキッチンへ行って、カップを戻した。

「優さん」

薫瑠さんが、部屋に戻ると言ったので、キッチンを出てすぐの廊下で別れようとすると、私を呼び止めた。

「はい?」

私は、首を傾げ、返事をする。

あれ?戻らないのかな…?

とか思っていると、少し聞きづらい小さな声で薫瑠さんは話し出す。

「…夜、行くんですか?」

「………………?」

薫瑠さんの問いかけに、私はハテナマークを浮かべた。

「日向の部屋へ、です」

薫瑠さんは、白い壁に背中を預けながら、私に視線を向けた。

「…あぁ、行きますよ?…行かないと、なんか酷い事されそうなので…」

私は、声のトーンを低くしながら薫瑠さんに言った。

…だって…ねぇ。…ハッキリ言って、言うこと聞いて、日向さんの部屋へ行かないと、私の命が危ないと…思うし…。

「…そう…ですか……。…すいません、くだらない事で呼び止めてしまって」

薫瑠さんは、苦笑いをこぼす。

「へ?…ぜ、全然、大丈夫ですよ!だ、だって…心配してくれたんですよ…ね…?」

多分、心配してくれた…のかな…。

「……心配どころか、不安です。…日向が、アナタに何かするんじゃないかと…」

「…あはは……」

薫瑠さんの言葉に、私は苦笑いをすることしか出来なかった。

だって、薫瑠さんの言葉を否定出来ない位に、私も同じ事を考えていたから。

私、もう不安しかないです…。

「…日向になにかされたら、迷わず叫んで下さい…。……すぐに、駆けつけます…」

「……ありがとうございます」

私は、嬉しくてニコッと微笑んだ。

…薫瑠さんの優しい一言で、ちょっと、安心したかも。

「…いえ……。…では、俺はもう行きますね。優さん、また後で」

「…はい、また後で」

薫瑠さんは、ペコッと頭を下げてから部屋に戻っていった。

なにもする事がなくなったので、私も自分の部屋に戻って。

晩ご飯の時間まで、時間を潰すことにした。