その後、嶺美さんは、用事があるらしく家の中に戻っていった。


二人になった後も、私と薫瑠さんは紅茶を飲んでいた。

「優さん、紅茶のおかわりは、いかがですか?」

「あ、お願いします」

私は、薫瑠さんに空のカップを渡した。薫瑠さんは、ニコッと微笑むと、紅茶を注いでくれる。

「はい、どうぞ?」

「ありがとうございます」

私は、薫瑠さんから紅茶を受け取るときに、微笑んでから紅茶を受け取った。

「…い、いえ………」

薫瑠さんは、少し止まってからすぐに私から目を逸らした。そして、薫瑠さんは、紅茶でノドを潤した。

「…薫瑠さんは、紅茶が好きなんですか?」

前々から気になっていた。…薫瑠さんに近寄ると、紅茶の微かな良い香りが漂うから。

「…はい、とても好きですよ」

薫瑠さんは、私の質問に優しく答えてくれた。

やっぱりか。私の予感的中!

「……紅茶は、殆ど毎日飲んでいるんですか?」

私は、紅茶を一旦置いて、薫瑠さんに質問を続けて投げかける。

「時間があれば、殆ど飲んでいますよ」

「そうなんですか?…薫瑠さん、本当に紅茶が好きなんですね」

「……はい。…紅茶を飲んでいると、落ち着くんです。俺は、ちょうどよく温かくて、少し甘い香りがするのが特に好きなんです」

薫瑠さんは、そう言って、紅茶の香りを嗅いだ。

私も、薫瑠さんをマネするように、紅茶の香りを嗅ぐ。

フワッとした甘い香りが、鼻に届いて、気持ちを軽くした。

「………あ、本当だ……。…気持ちが軽くなった感じがします」

紅茶の香りに虜になった私は、目を閉じて香りを嗅いでいた。

「ふふっ、そうでしょう?」

薫瑠さんの声が少し嬉しそうに聞こえたのは、私の気のせいかな…?

「はい………」

私が、返事をすると、薫瑠さんが私の頭を壊れ物を扱うように優しく撫でる。

「…………………」

「……薫瑠さん?」

薫瑠さんは、頭から首へ手を動かした。

「……アナタは、とてもいい香りがします」

薫瑠さんは、笑顔とはいえないような笑顔で、私に微笑みかけた。

「………へ?……あ、ありがとうございます…」

薫瑠さんと目が合うと、また体が動かなくなった。私は、薫瑠さんから視線を逸らせなくなる。

これ……。もしかして………。

私の頭の中は、今までこんなことがあった後、どうなったかを思い出していた。

「優さん…、こんな俺が言う願いを叶えてくれますか?」

薫瑠さんは、優しく私の首筋を触り続ける。

「……ぁ…の…………」

あ、あれ?声も出なくなってる……。

ど、どうしよう…。さすがに、薫瑠さんでも怖い……。

「アナタの血を少しだけ…飲ませてくれませんか?」

そう言って、薫瑠さんは私の首から髪の毛をどけて口元を首筋にあてた。

ゆっくりと薫瑠さんの牙が首に刺さるのが、分かる。でも、不思議と全然痛くなくて。

私のことをちゃんと思いながら、血を飲んでくれてるんだな、と呑気にそんなことを考えていた。

「…ぁ……っ…───」

でも……、痛くなくても、やっぱり気持ちよくはなるもので。変な気持ちに、体は小刻みにブルブルと震えた。

「──……んっ…、……美味しかったです。…優さん…痛くなかったですか?」

薫瑠さんは、私の頭を優しく撫でてくれた。

「……………、はい……」

私は、さっきまで出なかった声で薫瑠さんの質問に答えた。

あ、声出た……。

「……怖かったですか?」

薫瑠さんは、切なげに笑った。私は、すぐに手を横にふって否定をした。

「……い、いえ…。そんな…ことは……」

いや、本音を言えば怖かったです……。

「……ごめんなさい…。…飲まないように我慢はしていたんですが…」

薫瑠さんは、私と目を合わせて申し訳なさそうに、微笑んだ。

「…………え?そうなんですか?」

「はい…。俺は、当たり前なんですけど血を飲まれたことはなくて。…でも、飲まれる側の方達は凄い…怖いと思うんです」

「…………………」

薫瑠さん、そこまで考えていたんだ…。やっぱり、薫瑠さんは優しいヴァンパイアだ…。

「だから、飲まないように我慢したんですけど……。ダメですね、やっぱり俺はヴァンパイアでした…。血を飲むのを我慢するなんて、出来ないんです………」

ギュッと、薫瑠さんは自分の手を強く握りしめた。