インストール・ハニー

 会話が終わったようだ。あたしはこっちに顔を向けた楓にビビッて、建物の陰に引っ込んだ。ああ、別に隠れなくても……ちょっと盗み聞きしたみたいになったけど。

 楓が動く気配が無いので、あたしは「いま来たんだよテヘペロ」みたいな感じで、小走りで楓のそばへ寄った。

「青葉」

 人差し指の指輪をはめ直しながら、彼はあたしに気付いた。

「なにしてんのー? お茶貰ったよ。冷たいよー」

 暑いのだろう、頬に汗が伝っている。こんなところで……蚊に食われるだろうに。
 あたし達は休憩室には戻らず、その場でペットボトルを飲んだ。サンライトの裏側も駐車場になっていて、その向こうは山になっている。そこらへん草むらだから、虫の声が聞こえる。

「ちょっとぬるくなっちゃったかな」

「大丈夫。冷たい」

 ゴクゴクと飲んで、息を吐く。それからもう一度、楓は口を付けて飲んだ。喉が乾いていたのだろう。

「あと上がって良いって。着替えて帰ろうよ」

 ペットボトルの蓋を閉めながら、楓に言った。「ああ」と小さく答えた。なんかちょっと元気無いような気がする。暑かったしバテたのかもしれない。


「青葉」

 先に行こうとすると、後ろから呼ばれる。振り向くと、楓は空を見ていた。あたしも釣られて上を見た。月が出ていた。

「俺が、他のところに居る人間だとか……スマホから出てくるとか。気持ち悪いか?」

 飲み残しが入ったペットボトルがチャプンと鳴る。あたしはじっとりとかいた汗を拭った。なんでそんなことを聞くんだろう。

「……別に、そんな風に思ったこと無いよ」

「そうか……」