インストール・ハニー

 そのあと、バタバタと仕事をこなして、一息ついた。時計は20:30を回っていた。

「今日は長引いちゃったから、残業つけとくね」

 ママさんが言った。すんごい疲れたな今日……暑いし。熱帯夜で、陽が落ちても暑い。

「冷たいの、これ飲んで。はい、楓くんのも。あと上がって良いよ」

 ママさんがフロント越しにペットボトルのお茶をくれた。喉が渇いていたから、もう今すぐ開けて飲みたい。たまらないこの誘惑……!

 楓にもって言われたし、探してくるか。店内に姿が見えないから、客室の方か、厨房……厨房はあたしが皿洗いしてたから、裏にでも行ってるのかな。
 フロントを一海に交代して、楓を探しに出た。休憩室には居なかった。


「どこ行ったんだろう」

 外に出るとむっと蒸し暑く、引いていた汗がまた出てきた。お茶ぬるくなっちゃう。あたしはエプロンにくるむようにしてペットボトルを持った。
 建物を囲むようにしてる駐車場を通って、裏の方に回ろうとした。すると、声が聞こえる。


「はい……分かっています」

 楓の声だ。誰かと電話してる? 電話って、携帯とか持ってただろうか。建物の陰に隠れつつのぞいて見ると、窓から漏れる明かりで浮かび上がる楓の背中。建物に背を向けて、右耳に手を当ててる様だ。横顔が見える。

「いえ、彼女は……まだ」

 彼女。あたしのことかな。まだ……? なんのことだろう。

「はい。また連絡します」