インストール・ハニー

 夏休みは楽しかった。本当に楽しかった。だから来年のサンライトでのバーベキューは佐山さん達も呼んで、クラスメイトがたくさん居る夏休みにしよう。

 毎年思い出んすだろうな、あの楓が居た秘密の夏休みを。


 君は消えてしまったけれど、思い出は消えていないよ。あたしが名前を付けて、そして好きになった人。

 あたしも一海も佐山さん達も楓を覚えているのに、楓だけがあたし達のことを忘れるなんて、記憶を消されるなんて、残酷なゲームアプリだなって思う。

 みんな忘れてしまっても、あたしの胸の中には楓が息づいている。ひとりじゃないって、思い出す。物は何も残ってないけれど、心には熱く確かなものがある。いつか、愛する人ができたら、勇気を持って思いを伝える事。

 寂しくて仕方がないけれど。いまは、楓への想いを胸に、生きていく。あたしに、魔法をかけていってくれたんだ。自分を信じる事。前を向く事。


「おはよう」

 姿は見えないけれど、朝、楓に向かって声をかける。

「好きだよ、大好き」

 あの夏の朝に声に出して言った言葉。もう一度、光に呼びかけながら。あたしは、前を向いてしっかりと歩いていくんだ。まだ、寂しいけれど。


 ローファーとアスファルトの擦れる音。今日は、先生と進路相談をしていたので帰りは1人だ。来年は受験か。ちょっと気が重いけど。

 一海も佐山さんも先に帰っていて、1人で校門を出る。歩道の右手には道路、左手には校庭を囲むように木が植えてある。