インストール・ハニー

「俺は生まれたのは変な場所だけど、みんな俺を愛してくれたし、悲しく思ったことは無かった。でも」

 言葉を切った時、楓の目から一筋の涙が流れた。初めて見る楓の涙。一筋のあとから、ぽろぽろと、楓の優しい涙が落ちる。泣かないで欲しいのに、あたしはその涙を止められない。

「……青葉。好きだよ」

「……」

「このまま、居たいけど……そうもいかない。帰らなくちゃいけないんだ」

 俺は、育ててくれたあの施設に逆らえない。静かにそう言う楓。
 どういう景色を見てきたら、その瞳の色になるんだろう。深くて寂しい。でもずっと見ていたくなるその色。

「楓……あなた、本当の名前は?」

「無いんだ。だから青葉に付けて貰ったんだよ」

 名前も無く、親の顔も知らない。研究所で育った男の子。いま目の前で泣いてる。

「任務だから、ゲームだから。あたしを好きになったの? それが役目だから……」

 それだったら、そんなの悲しすぎるし、あたしのひとり遊びじゃないか。