「任務完了だ。管理システムが感知して、俺は強制的に戻される」
遠くで、クラクションの音がする。段々と、街が寝静まって行く時間。この家も、起きているのはきっとあたしぐらい。みんな寝ている。何日目の熱帯夜だろう。煎れた紅茶はもうとっくに、ぬるくなってしまっていた。
「ある研究所で人体転送システムが開発された。そのシステムと恋愛ゲームを融合させたもの。それがこのゲームアプリだ」
楓は短めに分かりやすく、あたしに話してくれた。ゲームのこと、楓のこと。
第9期目の研究で転送が成功したことから、通称「ナイン」と呼ばれるそのシステム。インターネットを介してインストールし、相手役の「王子様」を呼び出すのだそうだ。
ユーザーはランダムに選ばれ、遠隔操作される。怖い話だ。今回たまたまあたしに当たっただけの話。
傷ついた心と体を癒してくれる、それはそれは優しく素敵な、自分だけの王子様。
その為に楓は育てられた。研究所内で生まれた楓は、そこで教育され、そこで育った。両親の顔は知らない。そこにいる大人達に育てられたという。小さい頃のことはあまり覚えてない、そう楓は言っていた。記憶の操作があったか、過去のことを言わないだけ……。
「人を好きになると、繋がると、こんな思いになるんだな」
あたしの手を握って、頬を撫でて見つめてくる。なんて寂しそうな目をしてるの。そんな顔をさせたくないのに。



