「もしも文句言われたら俺が文句言ってやるから、たまには意見言えよ」


ぽんっと頭のお団子に手を乗せられて、反応ができなかった。

最後にもう一度「じゃあまたな」と言ってから背を向けて階段を上っていく彼の背中を見つめながら、触れられた頭に自分の手を乗せる。


……なんて、素直な人だろう。

なんて、まっすぐな人だろう。表情だけじゃない。根っからの正直者だ。


口はあんまりよくなくて、ドストレートな言葉ばかり。だけど、ウソは感じられない。

本当に文句を代わりに言ってくれるとは思ってないけど、その気持ちはウソじゃないって、思えてしまう。

江里乃のことを、好きだって、口にする。
私のことに腹を立てたと言う。だけど、謝ってくれて心配をしてくれる。


誰に対しても、きっと瀬戸山はあんな感じなんだろう。

そう、きっとそうだ。
……変な期待を、しちゃだめだ。


心拍数がいつもより早い。
それを抑えこむようにぐっと奥歯を噛んで、何度も言い聞かせた。

そう、気のせい。誰に対してもあんな態度。
私はただ、今までの印象がよくなかったから、しかもさっき、あんなことがあったから、頭が追いつかないだけ。それだけなんだから。


ぎゅっと目をつむれば、瀬戸山の、“私”に向けられた笑顔が浮かぶ。


調子が狂う。やめてほしい。

これ以上、接点は持たないほうがいい。
ゆくゆくは嫌われるウソつきなんだから……私は。