息が止まるかと思った。
そのくらい“これ”は衝撃的なものだった。


「いた、ずら……?」


首を傾げて呟いてみるけれど、誰かが答えてくれるはずもない。

教壇で授業を行っている先生は、今日、私が机の中にラブレターを貰っただなんて思ってもいないだろう。


私だってこんなものをもらうとは思ってなかったんですけど!


いや、落ち着こう。考えよう。落ち着け、落ち着け私。



ここは理系のクラスの教室。

移動教室で私はたまたま、週に1回、この教室のこの席に座っているだけ。

となると……これが私宛とは考えにくいんじゃないだろうか。


しかも、相手は瀬戸山だ。あの、瀬戸山。
文系クラスの私でさえ顔と名前を知っているあの瀬戸山。

確か先週隣のクラスの女の子が告白して振られたとか、前回の1学期の期末テストでは数学と科学は学年1番だったって噂で聞いた、あの瀬戸山。


そう、あの瀬戸山が私なんぞにこんなものを? 話したことだってないし、私のことを知ってるとも思えない。そのくらい接点がない相手なのに。


と、なると……この席に座る理系の女の子に宛てたラブレターとか? うん、そのほうが納得できる。

ただ……この落書きだらけの汚い机の持ち主が女の子? あまりの汚さにどんな男の子なんだろうと、友達と笑ったことだってある。


そして……いつもはぎゅうぎゅうに詰められている机の中が今日はスッカラカン。

代わりにマスキングテープで分かりやすく止められた、このしわくちゃのノートの切れ端があっただけ。


まるで、ここに座る予定の私に“気づけ”とでも言わんばかりに。


意味が分からない。全然理解できない。
もしかして罰ゲームとかじゃない?
いや、そもそも私宛であっているの?

告白なら宛名くらい書いてよバカ! 瀬戸山のアホ!


「お団子頭の黒田ぁー、話聞いてるか?」

「え? あ、いいえ! あ、いや、はい!」


パニックのまま返事をすると、「聞いてなかったみたいだからもう1回説明するぞ」と呆れ気味に言われて、みんなにクスクスと笑われた。