そして緊張の張り詰める中、美琴との距離を縮めようとした瞬間。

間もなく地上に到着します、とアナウンスが流れた。

見渡してみると、周りにはもうお城も花火も見えてはおらず。すぐそこには地上が見えていて。
間もなくしてゴンドラの扉が係員によって開かれる。
……タイムアウト。これといった事何もできずにタイムアウトだ。

「おかえりなさーい。あら、糸ずいぶん固く結んだのね。仲良しで羨ましいわー」
「……はは。どうも」

係り員の陽気なおばさんに笑顔を向けられながら、美琴の手を引いた大和が先に降り、美琴をエスコートするようにゴンドラから下ろす。
それから、もっと仲良くなりたかったのに……と心の中でガッカリしながら、美琴の手を引いた大和が観覧車を離れる。

花火はまだ続いているようで、ドォオオン……という音が夜空に響いていた。

ふたりの間ではまだ繋がれた手が揺れていて……離した方がいいかどうか迷いながら大和が隣を見ると、それに気づいた美琴がにこっと微笑む。

そんな笑顔にどきっとしつつ、キスができずにガッカリと落ち込んでいた気持ちなどすっかり忘れて、まだ手を繋いだままでいられる幸せを噛みしめた大和だった。

厳重に絡まった赤い糸が、ふたりの小指にそれぞれしっかりと繋がっていた。


今日から始まった夏休み。

彩乃が期待するように、ふたりがキスをしていい思い出を作る事ができたのかどうかは、また別の話。




END