「……名前…?」 あたしには名前がなくて、お母さんが後からつけてくれたはずなのに。 違和感を覚えて思わず口にする。 「……名前は、つけていたの…… でも、書き添えた物は…夜風に飛ばされしまったみたいで…」 「………」 風の強い夜だったとは聞いていた。 「あなたの名前はねっ――」 「――言わないでくださいっ…」 「………っ」 彼女の目が、悲しそうに歪んだ。