「そんなに己が悪いのか? 独りになんて、なりたくない……でも、どうすればよいのかわからない……わからないんだ!」
水面に須佐乃袁の声が波紋をひろげた。
応える者がないのは承知していた。それは、大きな独り言――のはずだった。
「姿が童子なら、中身も童子か……いっそ、童子という名にしたらどうじゃ?」
忽然と現れた声の主は、須佐乃袁の背後にあった大きな石の上に座してこちらを見ていた。
艶美な顔立ち。光を纏い流れる金糸の長い髪。切れ長の瞳は妖しいまでに艶めく金色。
開いた胸元の谷間には大きな溝があり、そこから仄甘い薫りが立ち上る。
鼻孔をくすぐられ我を忘れそうになった須佐乃袁は、はっとして声の主を見上げた。
「よ、余計なお世話だっ。童子だからって見下しているのか!」
「見下す? わたしが見下しているのではない。お前がわたしをみくびっているのじゃ……これだから童子は面倒だと云った……」
誰に云ったのか、須佐乃袁にはすぐに思い至った。
「――あんたが、破壊神インドラ?」
彼女の眉が片方だけ、ピクリと持ち上がる。
「そういうお前は、天照の眼の上のたんこぶ。こんなところまで来て、つぎはどんな悪戯をするつもりじゃ」
須佐乃袁の頬が、ツイと痙攣した。
「こんなところ、来たくて来たんじゃない! 己は帰る……」
「どこへ帰ると? お前は追い出されたのではないのか」
インドラの容赦ない台詞に、須佐乃袁の心がえぐられる。
「いま戻っても、また送り返されるのがオチ……いっそ地界にでも落ちた方がマシであったな」
ころころと声をたて笑う美神に、須佐乃袁はあっけにとられた。
――これが本当に、あの噂に訊く最強の武神か?
「己になんの用だ、己のことは放っておけばいいだろう! どうせ……己の居場所なんて、もうどこにも――」
「わたしのところへ来るか?」
須佐乃袁は耳を疑った。
「……戯れなら……他でやってくれ……」
声が震える。
「戯れか……そうかも知れぬな……わたしも少し、戯れが過ぎる質でな。気が変わる前に決めるがいいぞ? 来るのか……来ないのか」
沸き立つ不信感を隠しもせず、須佐乃袁は云った。

