先のころから須佐乃袁には、幾度も手を焼かされてきた。こうなるともう何を云っても訊きはしないこともよくわかっている。

 同胞として生まれた三神であるのに、須佐乃袁だけがいつまでも童子の姿なのは、その未熟な心に原因があるのだろう。

 そしてそれに気づいていながら、どうすることもできないもどかしさが月読にはあった。

「お前はなぜそうなのだ。気に入らないとなればすぐに腹をたて、したいことしかしない。いつまでも――」

「童子なんだよ。悪かったな!」

 月読もさすがに感情が高ぶった。

「それが申し開きか……そうやって童子であれば赦されると勘違いをしていれば、やがてお前はすべてを失うぞ。それともそれが望みか?」

「五月蝿い…黙れ! 月読こそ、心配するふりをしてなんなんだ。どうしてみんな己を責める。己は悪くない……悪いのは――」

 須佐乃袁の姿が忽然と消え失せた。どこか別の場所に逃げ出したのだ。

 残された月読の口から、深いため息が漏れた。

「…どうすれば、わからせてやれる。他の心を理解できないのは、お前自身が心を閉ざしているからだ。否定ばかりで認めることができないから、いつまでも童子のままなのだ。お前は己がどれほど恵まれているのか……わかっていない」

 月読は愁嘆に暮れ、唇を震わせた。


 *


 天照大御神を筆頭とした八百万の神が集う天界。その一部が、見るも無惨に荒らされていた。

 枯淡な趣の御殿は容赦なく穢され、雅やかであった庭のあちらこちらに大きな穴が口を開けている。

「――これがその結果か、月読」

 呼ばれた月読は、肩を落としていた。
 須佐乃袁が姿を消したのは、逃げるというような安易なものではなかった。

 彼はわざわざ天照の治める天界までゆき、悪戯の限りを尽くしたのだ。

「面目もございません」

 深く頭を垂れた月読を見下ろす天照の、虹色に輝く瞳が細められた。

 月読と同じ色の優雅に波打つ髪が、さらりと肩を滑り落ちる。

「これまでも、幾度となくあの子を庇うてきたが……これ以上の手立ては、わたしにはもうない」

 天照は愁眉に顔を歪め頭を振った。